新型ポップスの「楽しさ」はなぜ?:柴 那典氏「 ポップソングが「閉塞感」ではなく「楽しさ」を共有する時代へ」を読んで

音楽ライター柴 那典氏のブログにて、興味深いエントリーが投稿されていた。

ポップソングが「閉塞感」ではなく「楽しさ」を共有する時代へ http://shiba710.blog34.fc2.com/blog-entry-576.html

「不安」から「楽しさ」へ。
「苦悩」から「ハッピー」へ。
そういうマインドの転換が、2013年から2014年にかけて、起きつつあるんじゃないか、という話です。

確かに、「楽しさ」を共有、というのは、ここ近年のポップスの曲作りに感じる部分がある。そして、その理由として、ある種の社会情勢の変化の反映だ、という議論がなされている。

僕が思うに、ターニングポイントは、2012年の12月。簡単に言ってしまえば、「景気がよくなった」ことが、その理由だと思う。アベノミクスとかいろんなことが言われているけれど、端的にいえば、20年続いてきたデフレが解消された。そのことが、ポップソングのあり方にも大きな影響を与えている、という見立てです。

しかし、こと生活レベルでの経済の上向き、というのは感じられない、というのが正直なところではないだろうか(ぼくの周りの金回りが悪いだけなのかもしれないけれど…)。実際、成熟しきった日本で、底抜けに未来は待っていないことは多くの人が肌で感じているところだろう。そのため、ポップスの「楽しさ」回帰の根拠をマクロの社会情勢の変化に求めるのは、少なくともぼくはイマイチピンと来ない。

一方、こと「音楽を聴く」ことに関して、一般のユーザを取り巻く環境はぼくが何か言うまでもなく大きく変わった。 そして、ぼくが思うのは、この環境の変化こそが、跳ね返って流行音楽家たちの創作のあり方を変え始めているのではないか、ということだ。

ポップスの「会場で客が歌って完成」ブーム到来?

先月5月28日、ぼくは国立競技場、「JAPAN NIHT」の会場にいた。国立競技場最後のエンタメステージということで、ベーシスト亀田誠治の音頭の下、いきものがかりや、ゆず、斉藤和義などが参加したアレだ。 そのイベントで3番手くらいにステージにたったのは、ナオト・インティライミ。正直ぼくは曲もあまり知らないし、流し観ようかと思ったのだが、MCが面白く、ついつい惹き付けられてしまった。そして、曲目さえ知らなかったのだが「The World is ours!」というらしい曲で、ナオトが次のように煽る。

「この曲は、皆で歌って初めて完成するんだ!」

たしかこんな感じだ。そして繰り返されるシンプルなメロディ。歌詞はない。おお、これは確かに歌いたくなる、うまいなあ…などと思ったもんだ。

その後、岸谷香、ゴスペラーズ、ゆず、斉藤和義と続いて、現れたのはウカスカジー。これもまたぼくはよく知らなかった訳だが、ミスチル桜井和寿の別ユニットだ。ぼくはミスチルのイメージを持ったまま彼らの舞台を始めてみたが、桜井さんもまた、ナオトと同じことを言った。

「この曲は、皆で歌って初めて完成するんだ!(そしてはじまる『♪Oh-Oh-Oh』」(大体だけどね)

このとき、「このライブ的会場で曲が完成」的なコンセプトは、単なる煽り上手ではなく、この時代のポップスの一つのフォーマットになりつつあるのではないかと、ぼくは感じた。

CD時代のポップス、フェスのポップス

80年代にウォークマンとヘッドフォンがポップスに与えた衝撃は相当なものがあったのではないかと思う。どうあがいても音の聴こえる範囲で周囲を巻き込んでいく「音楽」というメディアが、歴史上初めて完全に「個人」のものとなったからだ。そしてこの方法は、LPよりもコンパクトで個人所有に適したCDという容れ物と共に、特にポップスを楽しむ若者を中心に音楽視聴のスタンダードとなった。 そして、例えばミスター・チルドレンみたいな「アーティスト」は、そんな状況にうまく乗ったバンドではなかったか。「アーティスト」とは「個人の創作性」の発露にて作品をつくるものと思われているし、そうした「アーティスト」の描く等身大、ある意味私小説的な世界は、ヘッドフォンのようなものを媒介として、ユーザーと一対一で交わった。

それから20年あまり。音楽の現場は大きく変わった。CDで音楽を聴くことはもはやメジャーでなくなり、人々はyoutubeで大変快適に気軽に音楽を楽しんでいる。しかしそれは、お金にはならない。 そんな中、市場が注目するのは、ライブだ。特に近年増加が著しいのフェス。フェスでは、初見のバンドがあるというのは普通に起こりうる。ステージが複数に跨いでおり、バンド間で客を奪い合うような状況になることも少なくない。 こうした現場で、よりよい体験をユーザにしてもらうにはどうすれば良いのか。言い換えれば、バンドが注目の的であるために、もっと言えばその後のワンマンやフェスなどの仕事につながるように、するにはどうすればいいのか?

流行音楽家の至上命題は、「人気者であること」だと思う。これには色々異論があるだろうけれど、彼らが食っていくためには必要だろう。そして、優れた流行音楽家は、環境の変化への嗅覚がすごいのだろうと思う。

個人個人に私的なメッセージを投げかけて成功したCDの「アーティスト」の時代は遠い昔のことになろうとしている。 それならば、「予習」が必要な歌詞や難解なメロディは、極力いらない。テンポももしかしたら、アガれるように早い方が良いかもしれない。お客さんとバンドと、一緒に楽しく盛り上げられるように。

そうして出来上がるのが、「楽しさ」を共有する、フェス系ポップスだ。

あれ、でもこれって…メタルじゃね?

ようやく時代がアイアンメイデンに追いついたか。

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